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東京地方裁判所 平成7年(ワ)24345号 判決 1997年5月27日

原告

神戸義夫

ほか二名

被告

鈴木浩

主文

一  被告は、原告らそれぞれに対し、各四二六万〇四四一円及び右各金員に対する平成七年七月一三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は二分して、その一を被告の、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、主文一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

被告は、原告らそれぞれに対し、各金七九六万九〇七五円及びこれに対する平成七年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告

請求棄却

第二事案の概要

本件は、交通事故で死亡した訴外神戸くめ(以下「亡くめ」という。)の遺族である原告らが、被告に対し、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生

(一) 日時 平成七年七月一三日午前七時五五分ころ

(二) 場所 東京都練馬区石神井台二丁目二六番三号先路上

(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害者 被告

(四) 加害車両 普通乗用自動車(多摩八八せ九)

(五) 被害者 亡くめ

(六) 態様 被告は、加害車両を運転して、本件事故現場にさしかかり、安全確認をしないで、住宅地内の丁字路をいきなり左折し、左方道路の端にいた亡くめに衝突し、同人を死亡させた。

2  責任原因

被告は、加害車両を運転して、本件丁字路を左折するに当たり、左方の安全を確認せず、亡くめに気づかなかつた過失があり、本件事故は、右過失により生じたものであるから、民法七〇九条ないし自賠法三条により、原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

二  争点

1  損害についての原告らの主張

(一) 亡くめの損害

(1) 逸失利益 一二六七万七二三〇円

<1> 家事労働 九八三万二四一三円

亡くめは、本件事故当時、八〇歳の主婦であつた。基礎収入として、平成六年賃金センサス学歴計・職業計・全年齢の平均賃金(年額三二四万四四〇〇円)、就労期間として、平均余命(九・四六年)の約半分である五年、生活費控除率を三〇パーセントとして計算する。

3,244,400×(1-0.3)×4.3294=9,832,413

<2> 年金 二八四万四八一七円

亡くめは、老齢年金年額五四万八〇〇〇円を受給していた。受給期間として、平均余命九・四六年、生活費控除率を三〇パーセントとして計算する。

548,100×(1-0.3)×7.41475=5,844,817

(2) 慰謝料 二四〇〇万〇〇〇〇円

(二) 神戸勝及び原告らの固有の損害 一五一万六三〇〇円

(1) 葬儀費用 一五〇万〇〇〇〇円

(2) 死亡診断書代 一万〇〇〇〇円

(3) 文書料及び雑費 六三〇〇円

(4) 神戸勝及び原告らの固有の損害額((1)ないし(3))

<1> 神戸勝 七五万八一五〇円

<2> 原告ら 二五万二七一六円

(三) 相続

神戸勝は、配偶者として亡くめの損害賠償請求権の二分の一(一八三三万八六一五円)を、原告らは、子として各六分の一(各六一一万二八七一円)を相続した。

相続及び固有の損害の合計は以下のとおりである。

<1> 神戸勝 一九〇九万六七六五円

<2> 原告ら 六三六万五五八七円

(四) 損害の填補

自賠責保険から、神戸勝につき八二五万三一五〇円、原告らにつき各二七五万一〇五〇円の填補を受けた。

填補後の損害額は、以下のとおりである。

<1> 神戸勝 一〇八四万三六一五円

<2> 原告ら 三六一万四五三七円

(五) 弁護士費用

弁護士費用は、神戸勝につき、一一一万〇〇〇〇円、原告らにつき、三七万〇〇〇〇円が相当である。

弁護士費用を含めた損害額の合計は、以下のとおりである。

<1> 神戸勝 一一九五万三六一五円

<2> 原告ら 三九八万四五三七円

(六) 神戸勝死亡による相続

神戸勝は、平成七年一二月一八日に死亡し、原告らが、右損害賠償請求権を、各三分の一宛(三九八万四五三八円)を相続した。

したがつて、原告らの損害賠償請求権は、七九六万九〇七五円となる。

2  過失相殺についての被告の主張

亡くめは、本件事故現場で、しやがんで植木の手入れをしていたものと推測される。本件事故現場の見通しは悪いので、このような場所で作業をする場合には、周囲に注意を払い、車両等との接触を避ける措置を採るべきであつたにもかかわらず、亡くめは、これを怠つた過失がある。損害額の算定に当たつては、亡くめの右過失が参酌されるべきである。

第三争点に対する判断

一  事故状況及び過失相殺について

1  甲第一ないし第三号証、乙第一ないし第一四号証、原告神戸義夫、被告各本人尋問の結果及び前記争いない事実を総合すれば、以下のとおりの事実が認められる。

被告は、平成七年七月一三日午前七時五五分ころ、加害車両を運転して、交通整理のされていない丁字路である本件事故現場を、旧早稲田通り方面から富士街道方面(但し、私道につき行き止まり)に、時速約五キロメートルで左折した。本件丁字路は、交差点手前道路の幅員が三・九五メートル、交差点左折方向道路の幅員が三・七メートルであり、交差点左側に電柱が設置され、同交差点の左側端の見通しは悪かつた。また、交差点の右側端には、ごみ袋が置かれていた。

被告は、交差点の右側端と加害車両との間隔に気を取られて、交差点左側角付近を注視することなく、同交差点を進行、左折したため、同交差点の左側付近に佇立していた亡くめに全く気づかず、加害車両の左後部を亡くめに衝突させて、転倒させ、右側腰部打撲、骨盤骨折及び腸骨内の血管損傷等の傷害を負わせ、同日午後四時二三分、右傷害に起因する出血性シヨツクにより死亡させた。

右認定した事実によれば、本件事故は、被告が、本件交差点を左折するに当たり、交差点左側端付近の安全を十分に確認すべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、左側付近を注視することなく漫然と進行した過失により惹起されたものであるから、被告は、民法七〇九条ないし自賠法三条に基づく責任を負う。

2  被告は、亡くめが、腰を落として植木の手入れをしていたことを前提として、同人にも、周囲に注意を払い、車両等との接触を避ける措置を採らなかつた過失があり、この点を損害算定において斟酌すべきである旨主張する。

しかし、被告の右主張は、以下のとおり理由がない。すなわち、本件全証拠によつても、亡くめが、本件事故現場で、腰を落としていたことを認めることはできないのみならず(かえつて、被告車両の左後輪のタイヤハウス付近で地上〇・九八メートルの高さのところに払拭痕があること、他方、亡くめの身長は、一・五一メートルであることに照らすならば、亡くめは、本件事故当時、佇立していたものと推認することができる。)、その他、亡くめが、加害車両から発見困難な姿勢を採つていたものと認めることはできない。結局、本件事故に当たり、亡くめの側にも過失があると解することはできない。

二  そこで、損害について判断する。

前掲各証拠及び甲第七号証、第九ないし第三五号証(枝番の表示は省略)並びに弁論の全趣旨によれば、原告らの損害は以下のとおりであると認められる。

1  亡くめの損害 二六八七万一三二八円

(一) 逸失利益 六八七万一三二八円

<1> 家事労働 四〇二万六五一一円

亡くめは、本件事故当時、八〇歳の主婦であつた。

基礎年収については、年齢を考慮して、平成六年賃金センサス女子労働者・全年齢・学歴計の平均賃金(年額三二四万四四〇〇円)の五〇パーセントである一六二万二二〇〇円とした(家事労働による逸失利益を算定するに当たり、その基礎として用いるべき八〇歳の女性の収入を推認させるに足りる的確な資料がないことから、右の金額を採用することとした。)。

就労期間については、平均余命が、九・四六年であることから、四年間は、就労ができるものとして、そのライプニツツ係数を用いて、中間利息を控除した。

生活費控除率については、三〇パーセントとした。

1,622,200×(1-0.3)×3.5459=4,026,511

<2> 年金 二八四万四八一七円

亡くめは、老齢年金年額五四万八〇〇〇円を受給していた。

受給期間については、平均余命が九・四六年であることから、九年のライプニツツ係数(七・一〇七八)と一〇年のライプニツツ係数(七・七二一七)の中間値を用いた。

生活費控除率については、三〇パーセントとした。

548,100×(1-0.3)×7.41475=2,844,817

(二) 慰謝料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

一切の事情を考慮して、亡くめが、本件事故で死亡したことにより被つた精神的苦痛に対する慰謝料相当額は、右金額と認められる。なお、右金額の算定に当たつては、神戸勝及び原告らの固有の精神的苦痛の程度も考慮した。

2  神戸勝及び原告らの固有の損害

(一) 葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

(二) 死亡診断書代 一万〇〇〇〇円

(三) 文書料及び雑費 六三〇〇円

(四) 神戸勝及び原告らの損害額

固有の損害についての神戸勝及び原告らの内訳は、神戸勝が二分の一、原告らが各六分の一を負担したものと推認できる。

<1> 神戸勝 六〇万八一五〇円

<2> 原告ら 二〇万二七一六円

3  相続

亡くめの損害賠償請求権について、神戸勝は配偶者として、二分の一(一三四三万五六六四円)を、原告らは、子として、各六分の一(各四四七万八五五四円)を相続した。

相続及び固有の損害の合計は以下のとおりである。

<1> 神戸勝 一四〇四万三八一四円

<2> 原告ら 四六八万一二七〇円

4  損害の填補

自賠責保険から、神戸勝につき、八二五万三一五〇円、原告らにつき、各二七五万一〇五〇円の填補を受けた。

填補後の損害額は、以下のとおりである。

<1> 神戸勝 五七九万〇六六四円

<2> 原告ら 一九三万〇二二〇円

5  弁護士費用

本件訴訟の経過等に鑑み、本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用に係る損害は、神戸勝につき、六〇万〇〇〇〇円、原告らにつき、二〇万〇〇〇〇円が相当である。

弁護士費用を含めた損害額の合計は、以下のとおりである。

<1> 神戸勝 六三九万〇六六四円

<2> 原告ら 二一三万〇二二〇円

6  神戸勝の死亡による相続

原告らは、神戸勝が平成七年一二月一八日死亡したことにより、神戸勝が有していた亡くめの損害賠償請求権を各三分の一ずつ(二一三万〇二二一円)相続した。

原告らの前記損害額に、右相続による金額を加算すると、原告らの損害賠償請求権は、四二六万〇四四一円となる。

第四結論

以上によれば、原告らの請求は、それぞれ、四二六万〇四四一円及びこれらに対する不法行為の日である平成七年七月一三日から支払い済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は、理由がない。

(裁判官 飯村敏明)

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